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職務質問とは

 事件が起きた後、捜査で浮かび上がった犯人像にあった人を逮捕するきっかけとなるのは、職務質問です。また、薬物事犯の場合、薬物使用の嫌疑をかけられる最初のきっかけは職務質問です。自動車警ら隊の警察官は、目をみるだけでその人が覚せい剤を使っているかどうかわかるといいます。

 でも、目を見て分かった、ではさすがに裁判所も尿検査に必要な令状を出すことはしません。ですから長時間に及び職務質問を続け、なんとか氏名を生年月日を聞き出し、前科を把握し、令状をとる理由になる言動をとるよう警察官は対象に働きかけます。警察官は正義感にあふれていますから、このときに行き過ぎた行動をとることもたまにあります。職務質問が6時間に及ぶということもまれではありません。その間その場から動かせてもらえない、ということも普通のことです。

 それだけなら問題ないのですが(というか、問題ないとする裁判官の感覚には驚きですが、ともかく、裁判例では場所的移動の自由を6時間程度制約するだけなら問題ないとされる傾向にあります。)、パトカーに無理やり閉じ込められたり、電話をさせてもらえなかったり、果てには、トイレにも行かせてもらえず公衆の面前で脱糞してしまったという事案すらあります。

 ここまでくると、犯罪検挙という警察官の正義よりも、基本的人権の保障という憲法的価値の保護の方が大事になってきます。ですから、違法逮捕を理由に、尿検査の結果陽性反応が出たとしても検察官が不起訴にするという事例は枚挙にいとまがありません(検察官は不起訴の理由を明らかにしないので違法逮捕というのは弁護した私の推測なのですが、私が弁護人となった事案の中で、覚せい剤使用の陽性反応がでているのに不起訴になった事案の数は両手だけでは数えきれません。)。

 警察官が違法なことをした、ということの証拠は、通常残りません。証人が必要です。しかし、通りすがりの通行人は、あとで話を聞くということができませんし、一緒にいた知人というのでは何が違法で何が許される行動なのかピントが合わない供述をする可能性が高いです。職務質問中の警察官の行為の違法性について、判例を分析して許されない行為をきちんと見分けることができる弁護士が立ち会うことのメリットは、ここにあります。違法逮捕というのは、国家権力の横暴です。重大な人権侵害です。日本が近代国家であることを否定する、一個の犯罪よりもはるかに重大な総国民に対する脅威です(だから犯罪の証拠があっても検察官は不起訴にするのです。)。職務質問で違法なことをされた違法逮捕であることを主張して、不起訴を求めていくのはやましいことではありません。違法逮捕の適切な主張をするためには、弁護士を選ぶ必要があります。違法逮捕の事例に精通している弁護士でなければ、大事なポイントをスルーしてしまいかねません。

 薬物事犯だけの話ではありません。重大な凶悪犯罪についても、同じことが言えます。捜査の結果浮かび上がった犯人像にあう人を探し、職務質問で関与を疑わせる言動を引き出し、逮捕の令状をとる、そのあとは、取り調べのテクニックで自白調書に署名指印させて、冤罪事件のできあがりです。